¡Hola!
スペイン文化研究家のチカ(@Chica_espana0)です!

今日のテーマは「スペインでなぜ文化財の修復失敗が相次ぐのか」
今や定例行事のように発生し、世間を騒がせている「スペインの修復失敗」
謎に味わいのある作風になっていたりしてなかなか憎めないやつです。
今日は、そんな珍事件が頻発する背景と、これまでの失敗例を紹介していきます。
早速レッツゴー!!
スペインでの修復失敗例
最早日本では知らない人はいないほどの知名度を誇る「スペインの修復失敗例」
まずはこれまでのコレクションをおさらいしていきましょう!
2012年「サルのキリスト」フレスコ画

SNSで今でもいじり倒されている、伝説のフレスコ画。
修復を担当したのは当時81歳のCecilia Giménezさん。
「どこからどう見てもサルにしか見えない」ことから、「サルのキリスト」という愛称で知られています。
2018年「おもちゃのフィギュア」像

Navarra州Estellaの聖ミカエル教会にある、16世紀につくられたSan Jorge de Estella像。
聖人サン・ホルヘがドラゴンを退治する姿を多色で描いたこの像は、時を経て鮮やかなグレー一色に塗り替えられてしまいました。
これにはコルド・レオス市長も頭を抱える始末…。
2020年「サルのキリスト」マリア版

2012年の「サルのキリスト」の再来だと話題になったのがValenciaの聖母マリア画。
2度にわたる修復の甲斐もなく、残念な結果となってしまいました。

毎回全く違うテイストに変わっている…
2020年「ポテトヘッド(ドナルドトランプ)」像

Valenciaの銀行の外壁に取り付けられた、約100年前の彫刻。
あまりの惨状に、「顔がトイストーリーのミスター・ポテトヘッドみたいだ」「ドナルドトランプに似ている」といった声が相次いでいます。

クレーン車で作業するくらい高所にあって見えにくいが不幸中の幸い
実際に携わった修復師の声明
Cecilia Giménezさん(「サルのキリスト」)

ドキュメンタリー作品の監督であるAssumpta Sernaさんとの対話で、Cecilia Giménezさんは当時のことを振り返っています。
アート愛好家だった81歳のCeciliaさんは、フレスコ画が描かれた近所の教会を「助ける」名目で修復に参加しました。
善意の塊で修復作業を進めるなか、完成の前に休暇期間に突入。
再び作業に戻る前に、第三者によって「修復作品」が日の光に晒されることになり、意図しない形で世界中に広まってしまいました。
これについて本人は「修復を最後までさせてもらえなかった」と現地メディアに語っています。

つまり、あのフレスコ画は「未完成」だったのね
修復側と、それを依頼した側の「誤解」によって「スペインの恥」と呼ばれるようになってしまったCeciliaさん。
しかし、事態は思わぬ方向に進み始めます。
2012年に修復に失敗した当時は絶望的な空気が漂っていましたが、その後世界中に画像が拡散されたことで、今では人気の観光地に。
フレスコ画が描かれている教会は、入場料の徴収開始を決定。
人口5000人弱の町の中心から5kmという位置にあるにもかかわらず、2013年には70000人もの人々が訪れ、72.500ドルの売り上げを記録しました。

教会があるZaragozaのBorjaは、町の観光サイトに堂々と「Ecce Homo」を掲載。
修復を担当したCecilia Giménezさんの知名度も上がり、同町で絵画の展示会を開催しました。

今ではワインやファッションアイテムなど、様々なグッズが出ているよ
なぜスペインで修復失敗が相次ぐのか

歴史的美術品の修復が盛んなスペイン。
町には歴史的建造物が溢れ、ピカソ、ゴヤ、ベラスケスなど数多くの画家を輩出してきた芸術の国、スペイン。
この国の芸術系大学および専門学校には、修復を専攻するコースが数多く存在しています。
これらの学校で一流の技術を身に付けた学生たちが狙うのは、歴史的美術品の修復を専門とする修復師。
プラド美術館やソフィア王妃芸術センターなどの国立博物館では、絵画、彫刻、書物などカテゴリーごとに専属の修復師がおり、日々バックヤードで修復作業に当たっています。
国全体としては修復の技術力が高い一方、なぜスペインで失敗事例が相次いでいるのでしょうか。
修復産業の弱体化
経済危機の影響が強く、若者の失業率が50%を超えるスペイン。
修復産業も例外ではなく、技術力の需要と供給のバランスは完全に崩壊。
彼らが目指す有名美術館での修復師のポストは非常に倍率が高く、毎年星の数ほどの希望者が現れては消えていくのが現状です。
雇用機会に恵まれないまま修復師たちは廃業を迫られ、他国に移住するほかない状況が続いています。

スペインの修復保存協会(ACRE)は、「修復師」の職業が消滅の危機にあるとしているよ
整備の遅れが目立つ法体制
修復産業の弱体化に加え、近年叫ばれているのが「法整備の遅れ」
スペインでは高難易度の修復師資格が存在し、これを有する多くの職人が有名美術館で活躍している一方、法律上ではこの資格が無くても誰でも「修復師」として働くことが出来るようになっています。
結果として、アマチュアの「修復師」たちが格安で地域の美術品の修復を請け負い、「失敗コレクション」が増産されてしまっているのです。
事実、これまで修復に失敗してきた作品の多くが地元の「アート愛好家」や「美術教師」などによって行われています。

これについてACREは「規制の欠如が文化遺産の喪失を招いている」と非難しているよ
日本での修復失敗例
これまで散々スペインでの修復失敗例に触れコミカルに扱ってきましたが、実は日本でも似た事例が起きています。
日光東照宮

「見ざる・言わざる・聞かざる」で有名な日光東照宮。
12億円もの費用を投入した平成の大修復が2017年に終わり、再び人々の目に触れるようになると、世間がざわつき始めました。


猿の目が…顔が…!
修復前より3割増しで大きくなった目。
しかし専門家によると、1900年以降5回も大修復を繰り返している猿たちの顔は毎回少しずつ違うのだとか。
職人集団「日光社寺文化財保存会」の手によって、時間をかけて修復されてもこの状態なので、いかに修復作業が難しいかが伺えます。

勝手が異なる伝統塗料を使ったり、文化財の修復には一筋縄ではいかない要因が沢山あるそうな
まとめ
スペインでの修復失敗例と、それが頻発する背景について紹介してみました。
自治体や修復保存協会にとってはショックな出来事ですが、結果的に地域活性化に役立っている事例も。
修復師、自治体、修復保存協会、美術品所有者全員が納得できるシステムの構築が急がれています。
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ではではまた会いましょう、Chao!
参照元:BBC, El Español, CNN, Borja turismo, 20minutos
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